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2007年2月24日 (土)

◆ガラス工房解説 4 【Moser】

Moser

1857年、ルートヴィッヒ.モーゼルによって「モーゼル.ガラス工房」として創立、チェコ.ボヘミア北部のドイツ国境近くカルロヴィ.ヴァリーに工場を構えた。当初はガラス研磨工房であったが、次第にガラス職人を招聘、ボヘミア伝統のカリ.クリスタルガラスでグラヴィール技法のガラスを生産していった。同地は中世からのヨーロッパ最大の温泉地であり、各国の王族貴族、芸術家などが頻繁に保養に訪れていた。そこで、モーゼルの卓越した装飾技術のガラスは彼らの眼に留まることとなる。
19世紀後半から20世紀にかけて、モーゼルのテーブルウェアはオーストリア皇帝フランク.ヨーゼフの宮廷御用達勅許を受け、ボヘミアンガラスを代表する存在となる。また、英国キング・エドワード7世、ノルウェーのハーコン7世などの各国王侯や、作家オノレ.ド.バルザックといった芸術家にも愛用され、国内外を問わず「キング.オブ.グラス」の名声を獲得した。同時に1870年代には高まる需要に対し、ペテルスブルグ、ニューヨーク、ロンドン、パリ各国に販売の拠点を構え、1895年には念願のガラス素地工場も完成、経営面にも品質面にも更なる向上を目指す。そして1900年にルートヴィッヒは経営を息子に、ガラス製作面ではカルロヴィ.ヴァリーの職人に信頼を預け引退する。

創業以来、一貫して透明素地のガラスを作り続けていたモーゼルだが、アール .ヌーヴォーの時代に入ると伝統技法を応用して新たな様式のガラスを製作する。透明ガラスの上から緑、紫といった色ガラスを被せ、写実的な草花文をレリーフカットした作品を多く展開していく。元来グラヴィールが御家芸であるから、その出来映えは言うまでも無く見事なもであった。またこの時期には「マハラニ」「マリアテレノア」「パウラ」といった現在にも続く銘品テーブルウェアが作品化され、ジョゼフ.ウルパン、ルドルフ.ヒレルなど優れた個人デザイナーが活躍した。
続くアール .デコ期も、ウィーン工房のデザイナーを招聘しモダンなデザインは取り入れながら、カットやグラヴィールを基盤とした透明ガラスの伝統的装飾といったモーゼル独自のスタイルは守り続けた。また1922年には、絵付けや乳白色ガラス制作に秀でた南ボヘミアのマイヤーズ.ネッフェを買収し、技術力と生産力の向上に取り組んだ。こうしたモーゼルの姿勢は1900年のパリ万国博覧会で銀賞、1922年には世界で初めて希土酸化物を使った「貴石カラー」のガラスの開発成功、1925年の現在装飾美術産業美術国際博覧会での金賞といった形になって表れる。

モーゼルの技巧的本領は、カリ .クリスタルの性質を生かしたボヘミア伝統の繊細なエングレーヴィングとカッティングにある。通常より非常に深く彫り込み文様を装飾する「ディープエングレーヴィング技去」は、より立体的、絵画の様に文様を表現することが出来る。またカッティングにおいても、多角形を面とりにカットし、あたかも宝石のように彫刻する「ファセット.カット」はモーゼルが得意とするところである。これら伝統技術に加え、近代に開発された貴石ガラス(色ガラス)は、調光具合や光線の種類により微妙に色彩を変化させる。これも他のガラスメーカーの追随を許さない、世界に誇る技術である。
現在においてもモーゼルはヨーロッパや北アフリカを中心に、世界中の皇族、国家元首の依頼を手掛けその信頼を不動のものとしている。それは一時的な流行に流されず、自社の誇る伝統的工芸手法に依っていつの時代も変わらぬ普遍的な価値の製品を創り続けていることにある。

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